ある電話/I.Yamaguchi
 
ネオンのように流れては戻るのだった。
 もしかすると、これは僕とマキが付き合い始めてから交わした一番まともな電話ではないだろうか。とにかくテンポがよかった。マキとは電話口でほとんど話さなかった。時間だけが過ぎて、三分ごとにピッと時間を知らせる音が耳の奥まで貫いた。彼女と二人でいる雰囲気を保とうと思うと、何か言葉を探しても口がつぐみ、さらに言葉の数が減るのだった。
 マキは一週間に一度、電話を自分からかけたときですら口を利けないほどにふさぎこんだ。そう言うとき、僕は彼女の名前を三回呼ぶのだった。すると、マキはおずおずと確かめるように僕の名前を言った。もう一回マキの名前を言うとマキは普段とも眠る前
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