ある電話/I.Yamaguchi
はっきりとした声で返事をしていたことを思い出した。やはり何を言ったかまでは思い出せなかったが、マキの声は半年前に比べると高くなったことに思い当たった。
「ねえ、私に言うことあるんじゃないの?」
「え?」
思わず聞き返した。僕はコタツの温度をもう少し下げようとツマミをまわしていたのだ。この日もそれまでほとんど会話らしい会話を交わしていなかった。
「私に言うことはないの?」
「おつかれさま」
と僕は返していた。三日ぶりに学校に行ったというので、誉めて欲しいのだと思っていた。お湯が沸騰して、やかんがピーピー言い始めていた。
「他には?」
「好きだよ」
今日二回言っていた。他には?
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