ある電話/I.Yamaguchi
不十分だった。昔見たテレビ番組を思い出した。タマネギを切ったときにでる硫化アリルという物質から化学合成してできたものが鼻と口に作用して酷い目にあうのだという。硫化というからには硫酸ににたものだろう、と決め付けて理科の実験で塩酸の中に鉄が溶けていくのを思い浮かべた。友人の作る酒のつまみを一度覗いただけで作ったので、まずいのも無理はない、とビールを飲みながらつまんだが、どう食べてみてもタマネギを口に含んだ途端にビールの泡は立ち去り、鼻の中ではたまねぎの臭いだけがツンとすまして、無理に酔おうとした意識を一気にはっきりさせた。
マキは僕がじゃあねと言ったとき、それまでの意識のとんだ声とは全く違う、はっ
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