ある電話/I.Yamaguchi
 
。珍しく鍋は焦げていなかった。カレーやシチューをつくると、いつも鍋をこがしていた。強火でたまねぎを炒めたせいで出来たのだろうか、何度も焦げがついたと思われる場所は、飴色になり、放っておくと黒ずんできた。そういうとき僕は、母はどのようにして鍋を焦がさずにカレーを作り続けたのだろう、と思いながら、少しでも銀に戻そうとタワシで黒ずんだ場所をこするのだった。洗った鍋を空焼きして油を塗ると、急に鍋が光を反射しててらてらと輝きだした。すると、鍋の表面は黒ずみまでが新品のように滑らかに見えて、僕をわくわくさせてくれた。
 僕がまじめに料理をしたのは一人暮らしになってからだ。初めて料理を作った日、僕はなるだけ安
[次のページ]
戻る   Point(2)