ある電話/I.Yamaguchi
める言葉を言わないだろうと分かっていた。彼女はこのあとに大丈夫、と確かに言ったが、それは僕の求めた僕とマキの関係についての大丈夫ではないと知っていた。ありがとうと言って、電話を切ると布団は既に温まっていた。悠は別れろと言っているのはわかっていたが、見方によっては良かったのよ、という言葉が妙に頭の中にすうっと流れ込んでいた。
布団を頭までかぶりながら電話をするというのは胎教みたいだと思った。母親の体の中にいるように、一枚の布団の中で頭まで丸めてクラシック音楽を聞くかのように言葉を聞いていた。母親と唯一つ繋がっている胎盤の役割は携帯電話とそれを繋いだ充電器に違いなかった。布団では目をつぶりながら電
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