ある電話/I.Yamaguchi
 
うなずきかけていた。しかし、手首の付け根がボールペンで突いた穴で蜂の巣のようになっているのを、次の日に見たときは背筋が冷たくなっていた。暖かい、と電話で言ったマキのことをまじまじと見たが、跡が残ることを心配する彼女に僕は、これからはしないように、と毒にも薬にもならないセリフを頭をなでながら棒読みしていた。。
 実際問題として、僕はマキが別れようと言ったのを深刻に受け止めていなかった。彼女はふさぎこんだ次の朝はいつも前夜になにを言ったのかを忘れていた。本人は健忘だと言っていたがどうやら睡眠薬のせいらしかった。きっと明日になったらケロリとしておはよう、とメールをしてくるのだと思い込んでいたが、どうし
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