無のむこうに/木立 悟
指をのばせば触れる
何も無く 触れる
何も無さにではなく
ただ 無いことに触れる
ちぎられたのでもなく
盗まれたのでもなく
花は指と手のひらに咲き
茎をかつぐ背を見つめる
花を隠し 歩む道
見えはじめた月も星も
雲のはざまのかたちにすぎず
けして足もとへはとどかない
風に削られつづける風が
花とともに陽へ落ちる
ひとつのまなざしを泳ぎきり
ひらきかけた片目へと降る
野と荒れ地のさかいめの
あどけない光のあつまりから
声はふいに現われて
小石の陰に分かれてゆく
呼んでいないように呼んでいる
呼んでいるように
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