百万塔/カスラ
 
百万塔陀羅尼(だらに)と呼ばれている、世界最古の印刷物としての本があるのをご存知だろうか。

これを知ったのは20年ほど前、実際に古書店をしてらっしゃる直木賞作家、出久根達郎氏の随筆によってである。古書店には様々な方面から、骨董としての文豪の書簡や、歴史文献、古文書の類いの売り込みがあるらしく、その実際にあった顛末が『漱石の手紙』などの出久根作品の中に書かれていた。氏は何度か百万塔の売り込みを受け、実物を眼にしたという。

この世界最古の印刷物は、木製で高さ21センチ程の仏塔型容器の中に陀羅尼経という経文を入れたもので、天平時代(764年)に称徳天皇によって、鎮護国家と藤原仲麻の乱平定のた
[次のページ]
戻る   Point(1)