春に降る雨/ku-mi
 
参加していなかった。
 
 春の喜びくらい、大切な人と分かち合いたいものだ。
 なんて言い訳が出来たことの幸せを今更のように感じている。
「今年はどうする」
 隣の席から問いかける同僚に即答できない。
 斜め向かいの席にちらっと目線を送ってみる。銀フレームのメガネをかけ直しながらパソコンに向かう整った顔がある。
 先日、異動して来た桜井さん。綺麗に磨かれた靴と、丁寧な仕事ぶりで私は勝手に几帳面な人だと思っている。
 ふいに目が合い、気まずさを隠すように問いかけてみる。
「桜井さんはもちろん、主役だから、歓迎会参加されますよね」
 その肩越しに見えた窓の向こうで、静かに振り出して
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