春に降る雨/ku-mi
していた雨。
「原田さんも、もちろん参加されますよね」
にこりと返って来たその笑みに、ふと思う。
―あの人も、不用意でこの先、雨に体を濡らすことがあるのだろうか。
また一つ、増えた傘。
ジャンピングで軽やかに開いた透明の花は、私の頭上に緩やかなアーチを描き居場所を作ってくれる。そのラインをすべるいくつもの雫が傘の先っぽから落ちていく。
それはまるでもう届くことのない言葉。
灰色の世界の中でこんなふうに確かな区切りがあるように、今ここに私がいるということは、あの日置いてきたものが、今でもそこにあり続けるということかもしれない。
家にはまだ、引越しの時のダンボールそのままクローゼットの隅で眠っている。
蓋を開けることがなくても、こうして生活に支障はないようなものが、私にはたくさんあるようだ。
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