春に降る雨/ku-mi
道で地下鉄の駅を目指す。
そんなふうに新しい生活のスタートラインを「せーの」と言うこともなくいつの間にか超えていた春。そうしていつまでも延長線上にすべてが広がっていくものだと思っていた。
その一瞬(とき)の咲かない桜も、冷たい風も、雨も、すべてが二人がいる場所であることには変わりはなかった。
やがて私がそのアパートから出て行く日。
整理しきれないまま荷物を押し込めるように、ガムテープで塞いだダンボール。懐かしいもので溢れていた部屋に、静かに積まれて行く寂しさが言葉を奪っていく。
だけどせめて残しておきたい言葉があった。
口をほどけば弱さまでこぼれてしまいそうになるから、
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