春に降る雨/ku-mi
せてくれる存在だ。
今の会社に就職してからもう7年経つ。
入社当初はまだ、学生時代からのアパートに住んでいた。1DKの狭い玄関先で、黒の洒落っ気のないパンプスを履こうとする私。その隣ではテカテカと光沢がかった紳士靴に靴べらを通す姿。
「今日は傘がいるよ」
それは几帳面なあの人の得意のセリフだった。
毎朝、天気予報のチェックだけはかかさなかった人。お天気お姉さんの笑顔を見ないと一日が始まらない、なんて言う姿を横目に、私は小さなテーブルに化粧道具を広げ支度していた。私の方が早起きだったのに準備はいつもあの人の方が早く、よく待たせていた。
二人でアパートの階段を駆け下り、近道で
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