春に降る雨/ku-mi
 
れば、それなりに淡い思い出は溢れてくるが、それを優しく包み込む景色がまだ揃っていない。桃色の花びらが舞う柔らかな温度も、背中を押すあたたかい風も。それでも世間ではすでに連休の話題をしているし、自分もその輪に入ってどう過ごすかなんて答えてもいる。
 そして外に出てまわりを見渡せば、訪問先の担当営業が変わっていたり、駅ビルの雑貨屋の店員が先輩から指導を受けていたり、この町でも始まりがちゃんとそれぞれに訪れている。
 今年、入社してきた新人に対して「最近の子にはついていけない」などと今さら言う立場でもないけれど、不透明な境界線のあたりにいつも佇んでいるような自分にとって、彼らは時間の流れを感じさせて
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