続・風のうしろに風はない/佐々宝砂
 
たとえぱ新井素子が『…絶句』の中で書いたように。たいした爪も牙もない、だから石をとがらせてナイフをつくった。たいした力もない、だから落とし穴で獣をしとめた。早く走れない。馬に乗った。乗り物をつくった。生肉が腐らないようとっておきたい。氷室や冷蔵庫をつくった。遠くに言葉を伝えたい。電話をつくった。インターネットでつながった。いまある状況に満足できないとき、人は新しいなにかをつくる。言葉もそのひとつだ。詩もそうだ。

いま私たちのおかれたこの状況に満足できないものを感じ、言葉を発することしかできないとき、詩人は詩をつくる。詩は単に言葉であって、早く走るための道具にもならないし、もちろん冷蔵庫にもな
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