最果の春/soft_machine
 
が切られた室内が現れ、しかしひとつになれない恋人達の幸せな、顔の無い四肢を見る。
何度も息を吹きかけたぼうっとした露でその窓をぬぐうから、千切れた葉光がすべてに降り注ぎ、ぼくは自転車に乗って那珂川の土手まで漕いで駆け下り、乾きに任せて川にくちづける。
それから要らなくなった傘を川面に浮かべて、海まで何処にもぶつからず、届きたいと願うんだ。
穏やかな月に曳かれて満ち、橡で染めた鉛が沈み、祖母が待つ満州に続く、夕日と波の重なりに。

耳を澄ませば蜜蜂がまた円を描き、八の字に踊っているよ。
ホームレスが鳩の休む枝を見上げて、公園は彼等の元に帰ってゆくよ。
きみが去った川底に落ちる雨。

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