短編「The First Encounter」/板谷みきょう
 
うちに少しづつ分裂し歪み始めていたのだ。いつの間に気付かぬうちにボクにとって、愛の究極は太宰だけとなっていった。

 少なくともボク達の時代の思春期の学生の殆どは、口には出さなかったけれど太宰治の虜になっていたはずなのだと思う。ボクは、あの頃に哀しくて切なく恋焦がれて泣いた。誰にという訳では無く、ただ一人よがりに告白をしているだけで、知らずに自分を守り続けていた。悲劇の主人公を演じる事で、己の真のぶざまさを隠し通し、そんな自分の有り様に泣いていた。それでも時間は、ボク一人を置き去りにして、全ての関係を丸め込んで去って行った。そしてボクときたら、心を伝える術も知らされず、太宰に傾倒している事を内
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