春のための三つの断章/前田ふむふむ
、
ひかりの芝生がひかれて、喪服を着た、
赤々と微笑みあう二本の葬列が、
草を踏みしめていく。
誰一人として、視線を、運河の水面に向けるものはなく、
わたしは、最終列を歩み、
蒼い空を仰いで、享楽の声を、掌に抱く。
「新しいって、いいことだね。」
白い鯨が、空洞の胸の街並みを、泳いでいる。
3
古い色を話そう。
影をふたつ以上引き摺る、わたしが、
深呼吸するコンクリートの三十五番目のビルの、
内からしか開かないドアのなかで、
原色の造花を植えている。
入口のガラス戸には、昔、貼られた「生け花を植える」という
求人募集のはり紙が、
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