春のための三つの断章/前田ふむふむ
が、剥がれかかっている。
原色が壊れてもいくらでも変りはある。
携帯電話のメールは、いくらでも書き直しをして送れる。
眼で削除すれば、ふたたび、
枯れない水彩画を描ける。
「仕事のあることは、いいね。
暗がりで、引きこもることもしないでいいし、
恥ずかしい路上で、虚無僧姿で、
使い古した尺八を吹いて、踊ることもないね。」
・・・・・・
垂直に立つ、一筆がきの夜は、消えかけている、
透ける薄いコートを着て、
わたしには、もう見えないのかも知れない。
一輪の夕暮れを、鳥篭にしまうカナリヤの気高さよ、
乾いた月の声を吐いて、
溢れる涙腺の泉を、越えてゆけ。
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