春のための三つの断章/前田ふむふむ
見たことがある。
空を突き刺す菩提樹のふところに、
寂れた病院が、弱々しく風に靡いている。
病院を支えるエタノール液をひたしたガーゼは、
患者の苦痛のなみだに、発火して、
紙のような病院は、一瞬で、燃え上がる。
逃げ惑うカレンダーの患者たち。
(逃げる母親は、息絶えた赤児を抱いて、
やっと見つけた運河のぬるい水面に、首だけをつかり、
熱さを耐えている。
苦しい眼のなかに、無邪気に口からシャボン玉を飛ばして、
笑う赤児を浮かべて。
見わたせば、水路には、
夥しい首のない患者の遍歴が並んでいる。
その傍らを、
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