風のうしろに風はない/佐々宝砂
私にとっての「凪の日」は、私にもいつか訪れるだろう。なるほど私はそのときすべてを赦されるだろう。私の肉体という荷をほどき、なごやかに無にたちかえるだろう。「たちかえる」という言葉がさりげなく「凪の日」にはある、そして私は。
みつべえさんも愛読するとおぼしき書物に『北風のうしろの国』という児童文学がある。私は子どものときから愛読してきた、今もかなしい日には読みたくなる一冊だ。北風のうしろの国では、北風が吹かない。そこは、みんながみんな「あしたはしあわせがくるんだ」と信じられるような気分になる国だ。決してしあわせそのものに浸れる国ではない。しかし北風のうしろの国にゆくためには、人は、人は。死なな
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