風のうしろに風はない/佐々宝砂
 
ななくてはならないのだ。この世で人として生きる限り、神や北風にどんなに愛されても、人は北風のうしろの国に住むことはできない、ひととき垣間見ることはできても永住することはできない。死なない限りは。

「凪の日」が描写する静かな世界は、「北風のうしろの国」に等しいものであると私には思われた。だから私には「凪の日」が恐ろしいものであると思われた。それはどんなに和やかに美しく癒やしに充ちて見えても、死の世界だ。誰一人いない死の世界だ。だが私はその、死の世界であるかもしれぬ「凪の日」に、言いしれぬ渇望を抱く。

そして、その渇望こそが私に詩を書かせる。




戻る   Point(11)