風のうしろに風はない/佐々宝砂
 

みつべえさんの詩の登場人物にとって、この世はまるで仮の世であるようだ。私にはそう思われた。たとえば「喃語」という詩の中では「おれもまた/あめつちの/ひとつの変幻」というある種仏教的な観念が語られる。「生活の術」という詩では「だいじな持ち時間をたれながし/まっさおなニセモノでありながら/あらゆる恣意的な解釈にたえている」という恐るべき(作者は「笑うべき」と書いているが私には充分「恐るべき」)なぞなぞが読者に投げかけられる。

このような視点で詩を書き続ける(と私は考える、違うかもしれないけど)作者が、「凪の日」というひとつの問題作をあらわしたとき、私は戦慄しないではいられなかった。戦慄してし
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