僕は神様/はじめ
 
膝には牝が一匹、交尾を求めているような求愛体勢をとっているだけのように見えた。この体勢は昔、アカリが幼い頃、といってもつい最近までアカリが僕に甘えるときには決まって取る姿勢だった。なのになぜ今回に限って全く違う風に感じてしまうのか。おそらくこの、初対面の女から溢れる艶めかしい汁のせいであることは間違いなかった。僕はこの汁の匂いを一呼吸嗅いでしまってからおかしくなり始めたのだ。未だに僕の鼻からこのつんとした鉄の錆びた匂いが取れずにいた。僕の中で何かが少しずつ、音を立てて崩れていくのが分かった。それはすぐ耳元で聞こえた。幻聴ではない。今まで僕が何十年もの間、胸の奥深くで無意識のうちに押さえ込んでいたも
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