【小説】お百度参り/なかがわひろか
を知らなかった。
それだけまだ幼かった。
大きな傘を持って、ペタペタと雨路を歩く。
お気に入りの傘。けれど誰も誉めてくれない。
遊び相手の弟と一緒に入る予定だった。
けれど彼はみんなに看取られながら、ベッドの中にいる。
少女には、やっと雨が降った日に、何故未だに寝ているかが理解できない。あれほど待ち望んでいた、雨の日なのに。
大きな傘。
しかしそれでも少女の肩は、少女の服は、濡れた。
こんなに大きな傘なのに。
少女は役に立たない傘をうとましく思った。
雨の中を走る女を見て、少女は自分の持っている傘が少し格好悪く感じた。
女はただ美しく、雨の中を駆けていた。
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