【小説】お百度参り/なかがわひろか
 

少女は羨ましかった。
大人であるということを、いとおしく思った。

弟の泣声は、家の外にまで聞こえていた。

少女は本当は知っていた。

弟の泣声に、ただならぬ悲壮が漂っていたことを。

それを死と呼ぶことを、少女は知らなかっただけだ。

しかし、いいのだ。

今はそのままでいい。

雨音に、弟の泣声をかき消せばよい。

知らないことの幸福を、今は感じておればよい。

雨は続く。


女のポケットに入った、小石が擦れ合う。
雨音と紛うような音。

まだ響く。

〜三〜

何年振りかに訪れた神社は、境内も汚れ、しかしそれは昔のままである
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