【小説】お百度参り/なかがわひろか
しかし、あの瞬間。
世界が変貌した瞬間。
自分は正しいとされ、今日まで生き残ってきた。
私は生きている。
そして、泣いている。
年を重ねた己の顔に、仲間の最後の顔が重なる。
死を受け入れた、その顔を。
男は今、同じ顔をしている自分に、やっと許しを得た気がしていた。
男は女に気づかれぬように、帰り道を急ぐ。
〜二〜
少女。
小学校に入学して、まだ間もない頃。
買ってもらった大きな赤い傘を持って、家を出る。
母親も父親も祖母も祖父も、皆が弟に付きっ切りになっている。少女は甘えた声で皆に寂しさを訴えるが、誰も相手にしない。
少女はまだ知らなかった。
死を知
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