【小説】老紳士の秘密の部屋/なかがわひろか
んな本がいいか、と聞くと、私が好きな本を、という。私はそれなりに読書をする方だったので、最近流行っている新刊本や、三島由紀夫や谷崎潤一郎の本を読んで聞かせた。谷崎潤一郎の関西弁を読んでいるといつもつまづく。それでも彼は黙ってにっこりと微笑みながらじっと聞いている。特に感想も言わない。彼が一番興味を示したのは、現代の女子高生の心を描いたようなよくある携帯小説だ。こんなものに彼が興味を示すのが私には意外だったが、彼はとても真面目に聞き入っていた。
そんな風に私の毎日は過ぎる。すっかり慣れてしまって、今ではこの家で暮らす方がリラックスできる。なんせ老紳士は用があるときにしか私を呼ばない。そしてその用
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