【小説】老紳士の秘密の部屋/なかがわひろか
 
の用はほとんど、食事のときくらいだ。

 ただ、一度だけ、老紳士に声を荒げて怒られたことがある。それはとてもか細い声だったが、普段小さな音の中で暮らしている私たちにとっては革命的な音の大きさだった。

 その日私は、部屋の掃除をいつものように早く済ませ、いつものようにやることがなくなっていた。この家には他にも使っていない部屋がいくつもある。どうせなら一部屋ずつきれいにしてみるのも悪くない。使わなくて、また汚れたら、またきれいにすればいいだけの話だ。私は二階の一番奥にある部屋から掃除を始めようとドアを開けた。その時だった。私が二階に上がる足音を聞いていたのか、後ろから大きなか細い声(まさにそ
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