【小説】老紳士の秘密の部屋/なかがわひろか
 
にそんな声だった)で私をしかったのだ。その部屋には絶対に入ってはいけない、と。私は本当に驚いて、事情を説明したが、彼は一言、余計なことはしなくていい、と言って私を追いやった。私はそれ以来その部屋にも、二階にすら行っていない。彼を怒らせることでメリットは何もないし、何よりここでの生活が気に入っている。みすみす逃す必要もない。
 今日のことはなかったことにして、私は二度とそこには立ち入らないように心に決めた。掃除で余った時間は、適度に読書でもしていようと思った。

 時々私たちは二人で話すこともあった。それは多くは食事の時間だが、老紳士はいつもかきこむようにどんぶりをすぐに平らげてしまう。だから
[次のページ]
戻る   Point(4)