【小説】老紳士の秘密の部屋/なかがわひろか
 
からいつもはそれほど話すことはないのだが、時々、ふと思い出したように、私たちは言葉を交わす。それは今日の天気のことであったり、今日読んだ本の感想だったり、だ。

 私はここに勤めだしてからのずっと気になっていた質問を、ある日の食後にぶつけた。ここでの採用を決めた例の面接の話だ。彼は私にいくつかの質問をしただけで、他の面接者を追い返してしまった。私は内心ほっと思いながらも、いつもどこかでひっかかっていた。なぜ私なのだろう。ずっとそう思っていた。
 老紳士は私の質問に、少し照れたような顔を浮かべて、とても恥ずかしそうにこう言った。

 「母の声に似ていたんだ。」
 老紳士の母親は、彼が三歳
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