【小説】老紳士の秘密の部屋/なかがわひろか
い。いつしか私は決まった時間に質素な食材を買っていく、高級外車に乗る女として周りから見られるようになった。金持ちも楽ではない。
夕食を一緒に済ませ、食器を洗うと、それで私の一日の仕事は終わりだ。これで一日二万円のお給料が出る。普通のサラリーマンに言ったら袋叩きに合いそうだ。ただ一つ弁解するならば、お金持ちの考えることは普通のサラリーマンが袋叩きをしたくなるくらい、よく分からないということだ。
老紳士は、目が見えない代わりに、家の自分が動く範囲は全て把握している。トイレに行くときも、お風呂に入るときも、どこになにがあるかは全部分かっている。私は彼専用のいろいろな場所に各々に適した物を常
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