【小説】老紳士の秘密の部屋/なかがわひろか
 
に決定し、待合室に残っている七〜八名の女性に丁重にお詫びを言って、交通費を出してそのまま追い返した。
 私はなんだか分からないまま、しかしとりあえず、就職試験に合格した。貯金の底はまだ見なくてすむと思うと、老紳士の不可解な決定にもそれほど不安を抱くことはなかった。世の中にはいろいろな人がいる。目が見えないのに容姿端麗を求める人もいる。そういうことだ。

 私の仕事は朝九時に家に行き、掃除、洗濯、昼食の準備をする。大きな家ではあるが、使っていない部屋もたくさんあり、老紳士の活動場所は極めて限られているので、掃除にそれほど苦痛はない。もちろん洗濯も老紳士一人分だ。何日か分をまとめてやるほう効率が
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