【小説】老紳士の秘密の部屋/なかがわひろか
容姿端麗を少しでもごまかすために)部屋のドアをノックする。「どうぞ」と声がする。ドアを明けて、就職試験以来の甲高い声で、名前を言って、部屋に入る。
そこには少し頭が禿げ上がって、口ひげを生やし、面接中にもかかわらず葉巻を吸っている初老の紳士が座っていた。しかし、私がどれだけその老紳士に笑顔を向けても意味はなかった。
彼は目が見えなかった。
次の日から、私はその家で家政婦として働くことになった。
私の採用は驚くほどあっさりと決まった。
面接で聞かれたことと言えば、家は近いのか、時間はどのくらい働けるのか、給料はこれでいいのか、ということくらいだった。老紳士はその場で私に決
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