【小説】老紳士の秘密の部屋/なかがわひろか
 
場所だ。
 いつしか私はその部屋を秘密の間と呼ぶようになっていた。

 もちろん、この家の片付けは全て私が任されているから、主亡き今、どの部屋に入っても誰も文句は言わない。
 しかし、そう思いながらも意を決して、私は二階の奥にある部屋のドアノブを握った。えい、そう一声かけて中に入った。

 そこには一つの棺桶があった。

 他には何にもない。
 ただ、一つの棺桶があった。

 私はまさに穴が開くくらいと言っていいくらいに、その物体を見た。 
 しかし、それは明らかに棺桶であった。
 私はおそるおそるその棺桶を開いてみる。
 中には小さなお人形を抱いている、大きなお人形が
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