【小説】老紳士の秘密の部屋/なかがわひろか
 
、同じような挨拶を言って去って行った。
 
 私は、彼の親類だという人から、残りのアルバイト代を受け取って、「申し訳ないが、給料は今までの倍出すから、家の掃除をしてくれないか。」と頼まれた。
 主を失った家は、取り壊され、売却されるらしい。確かにもう大分ガタが来ている。断る理由もなく、私は一つ一つ老紳士の思い出を片付け始めた。

 といっても彼は物を集めるという習慣がない。彼の部屋の片付けはすぐに終わってしまった。彼の痕跡を示すものを片付けるのに半日もかからなかった。

 しかし、この家には私が入ってはいけない部屋があった。
 おとなしい老紳士が剣幕をたててか細い声で私を叱った場所
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