【小説】老紳士の秘密の部屋/なかがわひろか
 
筋梗塞で突然死んだ。

 その日の朝も私はいつもより早めに家に向かった。台所で紅茶を沸かしていても、なかなか老紳士が起きてこないので、私は彼の部屋まで起こしに行った。
 布団の中で、彼は眠るように死んでいた。いやきっと眠っていてそのまま死んだのだろう。不思議と私はそれほど驚かなかった。なんとなく彼にお似合いの死に方の様な気がした。
 彼は経済界に影響を及ぼすような大人物だった。もちろんそれを知ったのは彼が亡くなってからだ。

 彼の葬儀はそれはそれは大層に行われた。
 どこどこの大会社の会長とか、次期総裁候補の政治家とか、普段私の周りでは空想の生き物でしかない彼等がたっぷりと来て、同
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