春のひかり/前田ふむふむ
 
道を辿っている。
やや、肌着が汗ばんで湿っている熱気は、
決められた苦痛として、耐えなければ、ならないだろうが、
雨上がりの欠落して過ぎてゆく車窓の景色は、瑞々しい。

公園の砂場の土を、より強固にするために、
踏み固める日常。
歩きながら、公園の黒い砂が、靴にこびりついてくる。
些細な苦痛。

わたしたちのめざす場所は、夕暮れのガラス窓の佇まい。
わたしの眼は、夕暮れの風景が、朝のひかりの頂点で、
鐘を鳴らしている。
そのとき、わたしの見ているガラス窓のむこうには、
もう、誰もいないのだ。
   あなたのすがたも見ることがない。
   風に吹かれた空き缶が、坂を転
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