美しい朝についての記述/芳賀梨花子
跡が生まれる。街路樹から落ちる雪はもう寒椿でも牡丹のようでもなく、それでも今朝の足跡さえ消し去り、吹き溜まりには堆く純白のままの雪があった。
八幡様の銀杏の木。枝だけになって、裏八幡から階段を登ってお参りを済ませた私の上にどんよりとした空がある。一歩一歩とそんな空から遠ざかる母になった私をそっけなく見下ろす。お正月の賑わいが過ぎた朝に牡丹園に行くのが習慣になったのはいつからだろう。改築された舞殿はあまり風景に溶け込んでいるようには思えなくて、鳩も居心地が悪そうで、裏山から飛び立った猛禽類の鳶が上昇気流を探している。こうこうと森の中から冬眠しないリスが鳴く。私は歩く。参道の石畳を歩く。見慣れた
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