連作「歌う川」より その1/岡部淳太郎
 

眼下の川と
頭上の空を
同時に見つめている
彼は 心ある人でさえも見ることの出来ない
光景を見る
至るところに
星が遍在しているのである
それは
頭上の星だけではなく
眼下の川にさえも
無数にまたたいている
川床の石は星で
川原の石も星で
川べりに建つ家の窓という窓も星で
祈る人の眼には
夢を見る少女のように星がまたたいており
その心臓は星の脈動
恒星の
炎である

そのようにして
祈る人の罪は
赦されもせず
罰されもせずに ただ在る
彼は淋しい家よりもなお淋しい
魂を持つ人である
頭上の星は星の川としてゆっくりと
眼下の星も星の川として
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