夕鶴異聞/蒸発王
もう今じゃ
この翼はすっかり見えなくなって
人は自分に翼が生えていることも
忘れてしまったそうでございます
それでも恋しく思う気持ちがあるから
思い出すのです
想像の翼を削って織った物を
美しく感じ思いこがれ
そういう反物は高く売れるんだとかで
其の
女房殿の翼は
深くむしり取ったのか 肉が爆ぜて
白い骨まで見えてね
今回の反物がうっすらと赤いのは
血が混じっていたんですよ
もう
羽が取れないから
織ることはできない
これだけ織っても
亭主は自分にも翼があることを
気づいてくれなかった
一緒に
飛んで行きたかったのに
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