夕鶴異聞/
蒸発王
傷薬を渡してね
せめて
と思って
高く買い取りましたよ
女房殿は
鶴になって飛んで行ったですって
とんでもない
あの人は
もう飛べやしなかった
歩いて行きましたよ
亭主の家じゃない方向へね
そうそう
その日は見事な夕焼けで
まるであの人の背中みたいに
真っ赤な夕日でね
お日様の治まる先へ
歩き続ける女房殿の
二本の脚が
長く
長く
伸びていました
だからね
あの女房殿は
鶴なんかじゃ無かったのですよ
『夕鶴異聞』
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