夕鶴異聞/蒸発王
 
て下すってね
ほら
そんなふうに接して下さるから
こっちもボッたくったりなんか出来ませんでしたよ
綺麗な織物だって
誉めると
真白な顔を
真っ赤にして首をふってね
いや
か愛らしいお方でした


私としちゃ
亭主の方が情けなかったですがね
真面目な亭主だったらしいですけど
布地が売れ始めたら
すっかり怠けちまって
ええ
ヒモですよ

女房殿も
たまに泣きはらした目で
売りに来たこともありましたっけ



そう
冬が終わって
春めいた頃でしたね

女房殿が
最後にここに来たのは


さっきも言ったように
女房殿の布は
いつだって
[次のページ]
[グループ]
戻る   Point(14)