彼の、パキーネ、異形の詩歴書番外/佐々宝砂
 
思う。60年代と80年代が一度にやってきた夏。その夏は、1980年代が終わるまで続いた気がする。SFに関しても、音楽に関しても、俳句に関してさえ、私には60年代と80年代がともに訪れた。炸裂しながら。

たくさんのきらきらするSFに混じって、眉村卓の古いSFは地味だった。まだ司政官シリーズも不定期エスパーも、ねらわれた学園も書いていない眉村卓は、小さな話ばかりを綴っていた。私はそれらを確かに読んだ。でも私は、眉村卓の小さな話の内容をほとんど覚えていない。覚えているのは「わがパキーネ」ばかりだ。強烈な読書経験を一挙に大量に受けたあの夏、たくさん読んでたくさん忘れたあの夏、なぜ「わがパキーネ」は私
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