春の闇に咲く/九谷夏紀
 
も車も少なくて
はびこるよどみ
春が連れてきた
ぼんやりと曇る
なにもうつさない空に覆われた私は
つられて
濁った空洞のまま歩いていいんだって思う
思い込みは横暴のままで
すいすい貫けてしまった


(こんな朧な闇など消えてしまえ)


目を開いていることさえ
信じられないような冬の濃く暗い夜を
忘れられない自分がまだいる
飽き飽きしてためいきをついたら
そんな気はなかったのに
いのちが芽生えた
両眼がぐりんって巡って
ぐるぐると暗い中でも何かを探そうとする


(あ。赤信号だ)

(ゆっくり行こうか)


100メートル先の
発光ダイオ
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