春の闇に咲く/九谷夏紀
つよくドアを開けた
勢い込んで歩き出した私を
なまぬるい夜が迎えた
予告なんて
してくれやしない
自然も人も
昨日までの冬が
過ぎ去っていたのに
日中は太陽がいるから
冬も偽る
夜になってほんとうの姿が見えることってよくあるから
いつもなら手厳しい冬
芯まで凍らせるくらい
荒々しくもっと向かってきてくれても良かったのに
痕跡も残さないまま過ぎ去られた私を
誰も見ないでほしいの
やり過ごしてくれていい
足音がどこからかやたらと響いて聞こえる
近づいたり遠ざかったり走ってきたり
ややこしい
車道の方が安全に思えてくるよ
広い公道を
行く人も車
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