春の闇に咲く/九谷夏紀
 
つよくドアを開けた
勢い込んで歩き出した私を
なまぬるい夜が迎えた

予告なんて
してくれやしない
自然も人も

昨日までの冬が
過ぎ去っていたのに
日中は太陽がいるから
冬も偽る
夜になってほんとうの姿が見えることってよくあるから

いつもなら手厳しい冬
芯まで凍らせるくらい
荒々しくもっと向かってきてくれても良かったのに
痕跡も残さないまま過ぎ去られた私を
誰も見ないでほしいの
やり過ごしてくれていい
足音がどこからかやたらと響いて聞こえる
近づいたり遠ざかったり走ってきたり
ややこしい
車道の方が安全に思えてくるよ

広い公道を
行く人も車
[次のページ]
戻る   Point(2)