蛙声/ブライアン
したのだ。闇に、光を失い形を失い、意味をなくした世界で、蛙は声を放ち、天と融合する。
蛙とは、蛙の声であり、泳ぐ蛙であり、跳ねる蛙である。例え、蛙がどんな形容であっても、闇においてそれらは一切の意味を持たない。闇は世界を包括する。
闇に鳴く蛙は天との融合を達成する。つまり、蛙の声は大地であり、水中であり、闇であり、天でさえあるのだ。それはもはや一つの感覚では感受しきれぬほどのメッセージであり、中也はそれを聞き、人へと思いを馳せたに違いない。
蛙の声を分裂させたのは、人の思考によるものであった。中也は声を大地に走らせ、水面を切り裂き、天へと還した。詩が諸感覚さえも感受できるように。
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