蛙声/ブライアン
東京に上京してから、全く耳にする機会がなかった蛙の声を、出張に行った帰りに聞いた。それは、東北だったか、広島だったか。どちらだったかは覚えていない。
その時、急に鳴きはじめたわけでもない蛙の声が、唐突に耳の中で騒ぎ出した。その声は宙を震え、天へと向けられていた。大地から、水中から向けられたそれらの声は、天に届くことなく、空中分解する。
蛙の体から放たれた声は、重力を持たないがため、分裂を免れないのだ。
蛙の声と言うと、いつも闇を連想する。夕闇、深淵の闇。闇が世界を覆い始めると、蛙の声は大きく響きだした。幼いころの記憶。蛙の声は闇と親和性が高かったように思える。
静かな闇の中で
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