にせの春/高宮シンゴ
 
はこりずに散歩に出てしまう
 僕はこりない人である
歩を散らす
歩が散る
目的も持たず 意志もなく
僕を散らす
僕が散る
どこまで散ればいいんだろう
あらゆる色彩はこの地の上に密集し始めているというのに
知りつくした道の上だけで移動をつづける
僕はまだ こりない人である

やがて世界は動き出し
花も虫も蛙も熊も 眠りから眼を醒ます
春の午後にまぶたが重くなるのは
人が考え出したまぬけな戦略
動くべき人は 動いている
目醒めるべき人は まだ悪夢とともにある
動く人がすでに手をつけ始めた
若い賭け
僕は散歩の道すがら
その資格もないのに冷笑の眼で見る
僕よ 
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