にせの春/高宮シンゴ
 
よ 静かな生活よ
生が滲み出すその現場に居合わせているというのに
何故 とりあえず鍵盤を叩いてみようとしないのか

僕の散ってゆく歩行は
陽の傾きとともにこの丘をひと巡り
いつもこうして時が終ってしまうのだ
散っただけで
ただ自分を散らすだけで
疲れた僕は公園のベンチに坐りこむ
ららら うららかな春は
ら行の希望を誰にも平等にわけ与えている
僕は歌う時 いつもら行で吃る
花は吃らない
陽も風も少女たちも
この春のコーラスは
吃る者がいる限りにせものであるだろう
春を無駄づかいする回り道の人生からぬけ出すために
春の和音に参加するために 僕は
立ち上がらなくてはならない
たとえその時僕を
暖かい立ちくらみが襲ったとしても

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