仕事の話/吉田ぐんじょう
 
るためで
ときどき海へばらまきたくなります
何百枚ものわたしの名前が
海へ舞い散る情景は
きっと美しいことでしょう


ふふふと笑うと電話が鳴ります
電話の音は
夏の終わりの蝉に似ています
耳に押し当てた受話器から
流れ出してくる知らない声は
のったりと耳を満たすだけ満たして
すぐに切れてしまいます
不通音を聞きながら
わたしはメモ用紙を取り出して
頭をゆっくり傾けます
そうすると耳から声が流れ出し
ぼとぼとと記録されゆくのです

そうしてまたわたしは
同じようにからっぽになります
誰かの怒声が聞こえます


[次のページ]
戻る   Point(25)